香川大学生涯学習教育研究センター研究報告第20号(2015年3月)に掲載された論文「相対的貧困状態に置かれている子どもに必要な支援とは?―国立大学法人香川大学への提案―」の続きをご紹介致します。
記
「Home」では、子どもとその支援者が、共に成長できるような人間関係の構築を目指すという観点から、当面の間は2つの支援活動を行う。1つは学習支援である。1つは居心地の良い場所で、スポーツや食事を共にすることである。この2つの支援活動を軌道に乗せてから、他の支援活動を展開したい。
まず、学習支援に関しては、単なる学校の授業の補完を最終目標とはしない。もちろん、学校で行われている授業内容に対する理解が遅れている子どもに対しては、分からないことを教えるという学習支援は行う。
しかし、現行の受験体制を前提にした塾で教えるようなものだけに限定することは考えていない。自由教育で世界に知られているサドベリー・バレー校の実践などを手掛かりとしながら、まさに、大学という学問・研究機関の特質を最大限に活かす取り組みを行うことにしたい(9)。例えば、探求型学習システムを導入し、子ども自身が面白いと感じるテーマを探求できるような学習支援を行うのである。
つぎに、居心地の良い場所での活動体験は、子どもが、何かあった際に「あの人に相談してみよう」と頭によぎるような人間関係の構築を目標とする。支援者となる大学生と食事やスポーツなどをすることで、互いに感謝し合い、日々「うれしい」「たのしい」という気持ちが生じるような支援を目指すのである。
「Home」の担い手は、前述のように、香川大学の学生ボランティアを予定している。将来は、教員免許を持つ社会人や、大学の教職員や教員体験者にも協力を要請するつもりである。
ただし、希望する者を全員、子どもたちと直接関わらせることはしない。なぜなら、この支援を受ける子どもは、貧困状態に置かれていることに起因する何かしらの心的外傷を有していることも想定されるからである。
そこで、人柄が良く志の高い学生を選ぶための面接を実施し、その上で、一定の研修プログラムを受講してもらうことを考えている。
しかしながら、取り組みに興味をもって参加しようとしてくれた学生の気持ちを無下にすることはできない。直接かかわることができなくても、一緒に遊びを考えたり、勉強方法を考えたり、夕食の材料の調達を手伝ったり、募金活動行ったりと、運営面で協力してもらおうと考えている。
支援の対象となる子どもたちに関しては、当面は、貧困状態に置かれている子どもで、かつ、子ども本人が希望することを条件とする。とともに、その親が協力的であると考えられる子どもに絞る。なぜならば、親の同意と理解は必要不可欠であり、この試みは失敗が許されないからである。
将来的には、成績が他の子どもよりも極端に低い児童・生徒や、不登校になっている子どもで、自らが参加を希望する者も加えることにする。
支援を必要とする子どもを集めるための広報活動としては、香川県教育委員会に協力要請を行うとともに、マスメディアへ情報拡散の協力を依頼する。
「Home」の可能性
香川大学には「地域に根ざした学生中心の大学」という看板が設置されている。図に示した「Home」が創設されるならば、その言葉通りの大学になることができるであろう。そして、「Home」に集った学生や子どもたちは、人間が人間らしく生きることができる社会を構築すべく、世界へと羽ばたいて行くであろう。
注
1.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/index.html(平成26年 7月 15 日)
2.この貧困率は、OECD(経済協力開発機構)が採用している算定方法によって算出されたものである。この方法は、等価可処分所得の中央値を算出し、その中央値の50%のラインを貧困線とする。この貧困線よりも世帯所得が下回る世帯を「貧困状態にある」と定義するのである。
3.平成26年8月29日閣議決定「子供の貧困対策に関する大綱~全ての子供たちが夢と希望を持って 成長していける社会の実現を目指して~」(http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/pdf/taikou.pdf(2015年2月22日))2頁。
4.提案の詳細は、別の論文として発表する予定である。
5.「平成25年国民生活基礎調査」18頁参照。
6. 制定経過については、湯澤直美「『子どもの貧困対策の推進に関する法律』の制定経緯と今後の課題」貧困研究第11号50頁(2013年)以下参照。
7.香川大学憲章や大学概要については、http://www.kagawa-u.ac.jp/information/outline/(2015年2月22日)を参照。
8.Homeの詳細については、その骨子を示すに留め、さらに検討を重ねたい。
9. サドベリー・バレー校の実践を紹介した大沼安史東京医療保健大学特任教授は、「『時代』はいまや『後・産業期』入りしているにもかかわらず、子どもの主体性を奪い、子どもを無力化する『産業期』の学校教育の弊害が『学習障害』としてなお居座り、子どもが『自由な学び』という『自然状態』に帰るのを拒んでいると、グリーンバーク氏は指摘」しており、「これを日本にあてはめれば、わが国の『後・産業社会』化を阻んでいるのは、文部科学省の『統制教育』である、ということになる。」(ダニエル・グリーンバーク著大沼安史訳『自由な学びが見えてきた~サドベリー・レクチャーズ~』227頁以下(緑風出版、2008年)との注目すべき指摘をされている。
参考文献
・浅井春夫・湯澤直美・松本伊智朗編著『子どもの貧困-子ども時代のしあわせ平等のために-』(明石書店、2008年)
・浅井春夫『脱「子どもの貧困」への処方箋』(新日本出版社、2010年)
・阿部彩『こどもの貧困-日本の不公平を考える-』(岩波新書、2008年)
・阿部彩『子どもの貧困Ⅱ-解決策を考える-』(岩波新書、2014年)
・新井直之『チャイルド・プア-社会を蝕む子どもの貧困-』(TOブックス、2014年)
・岩重佳治「奨学金問題と貧困」貧困研究第11号19-22頁(2013年)
・岩田正美『現代の貧困-ワーキングプア/ホームレス/生活保護-』(ちくま新書、2007年)
・内田充範「貧困の連鎖を断ち切る学習支援の取り組み」社会福祉学部紀要第20号45-54頁(2014年)
・岡部卓「貧困の世代間継承にどう立ち向かうか-生活保護制度における教育費保障の観点から-」貧困研究第11号29-39頁(2013年)
・鳫咲子『子どもの貧困と教育機会の不平等-就学援助・学校給食・母子家庭をめぐって-』(明石書店、2013年)
・公益財団法人荒川区自治総合研究所編『子どもの未来を守る-子どもの貧困・社会排除問題への荒川区の取り組み-』(三省堂、2011年)
・藤本典裕・制度研編『学校から見える子どもの貧困』(大月書店、2009年)
・松本伊智朗「教育は子どもの貧困対策の切り札か?-特集の趣旨と論点-」貧困研究第11号4-9頁(2013年)
・山野良一『子どもに貧困を押しつける国・日本』(光文社新書、2014年)
つづく
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