昨日1月5日のANNニュースニュースで、「厚生労働省は先月、看護系大学約280校に対し、看護師免許を持つ教員や大学院生を現場に派遣するよう要請を出した。」と報じられました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2a5dfbe03a7f4ebd87eff15752be2c7e9301d36a
このニュースに接した時に、私は違和感を持ちました。看護大学と看護専門学校で非常勤講師を務めた体験がありますので、これらの学校に対する厚生労働省の規制が厳しいことは多少知っています。
しかし、これらの学校は、ギリギリの教員数で運営しています。コロナで苦闘している医療機関に派遣する人材の余裕があるのだろうかと疑問に感じたからです。
あなたは、国民保護法という名称の法律をご存知ですか?本日1月6日朝、私は、この名前の法律を知りました。専門分野の一つが法教育でありながら、実に恥ずかしい限りです。
Facebookで、この法律のことを掲載された方のご了解を頂きましたので、以下、ご紹介させて頂きます。
なお、学校、地域、執筆者のお名前は、私の判断ですべて伏字にさせて頂きました。
記
国民保護法に基づく国民保護訓練では、既に看護学生(大学学部生や看護専門学校生)が全国各地で動員されています。
国主催による、地方で行われた最初の国民保護訓練は、私が前任校(●●●●大学)在勤中に●●空港で行われました。
●●空港は海上空港で、橋一本だけでしか対岸と繋がっていません。従って、極めてテロに弱い構造です。かつ、同様・類似の構造を持つ空港は現在では各地にあります(●●・●●・●●など)。
この国民保護訓練では、●●空港の対岸にある国立病院機構●●医療センターなどとともに、私の前任校である●●●●大学の学生が授業の一環として動員されました。授業の一環ですから、参加してレポートを書かないと出席にならない(場合によっては単位が取れない)わけです。
国民保護法85条では、「医師、看護師その他の政令で定める医療関係者」に対して、都道府県知事が医療を行うよう要請ないし指示を行うことができることになっています。
「その他政令で定める医療関係者」については、国民保護法施行令18条で12の職種が示されています。
●●●●大学の学生で、前述の国民保護訓練に動員されたのは、●●学部の学生と●●●●●●●●●●学科(●●●●●養成課程)の学生でした。しかし、これには大きな問題があります。
第1に、いずれの学科の学生も、「学生」であってまだ資格を持っていませんから、学生たちは国民保護法85条・同法施行令18条に言う「医療関係者」には全くあてはまりません。
しかも、●●●●●については、同法施行令18条に示されている12の職種の中に含まれてさえいません。つまり、●●●●●の資格を取ってからでさえ、動員される法的根拠はありません。
第2に、●●学部長(当時)は「これに参加すると災害医療などの練習になるから」というのです。国・地方公共団体が強制しなくても、進んで下から協力するというメンタリティが強固に存在することを深く感じさせられた経験でした。
第3に、●●●●大学●●学部は、学生の実習を全面的に国立病院機構●●医療センターに依存しています。つまり、国病にヘソを曲げられたら看護師を養成できないわけです。国病は武力攻撃事態法・同施行令で定められた「指定公共機関」ですから、組織として協力することになっています。国病の人たちから見たら「自分たちは協力するのに、ウチの隣にある●●●●学部が協力しないなんて」と思われても不思議ではありません。すなわち、国・地方公共団体が「強制」なんかしなくても、「要請」さえすれば、その「要請」を受けざるを得ない状況が作られていくわけです。
加えて問題なのは、実際に「大規模な武力攻撃災害が発生した場合」に国民保護法85条に基づいて医療関係者に要請・指示がなされる場合でも、当該地域の12職種全ての人員が動員されるわけではないと思われることです。
というのも、当該要請・指示が出されても、通常の医療業務はそのまま維持しなければならない(簡単に言えば、例えば入院患者をほっぽり出して全員が戦地に行くわけにはいかない)からです。となれば、要請・指示があった場合には、病院長など責任者の判断で、その施設などに所属する医療関係者のなかから選抜が行われることになります。
だとすると、病院長などの責任者は誰を選抜するか。
当然、訓練の経験がない人より、ある人を選ぶことになるでしょう。
つまり、●●●●大学は、自らの教え子を進んで戦場に送るような選択を日本で最初にしたことになります。
これについて私は教授会で問題点を指摘しましたが、多くの教員がぽかーんとしておりました。
先の大戦のあと、政治的な立場はどうあれ、多くの教育者が共通に誓ったのは「教え子を再び戦場に送らない」ということではなかったのか。
しかも、他ならぬ●●にある大学で、かつ、●●●●●学校でです。
下に引用した記事は、もちろん、戦争に行かせるという話ではありません。加えて、「要望」にとどまっています。
しかしながら、この「要望」を100パーセント断ることのできる大学院・大学がどれだけあるでしょうか。厚生労働省は、看護師養成課程の認可の権限を握っているのです。「『要望』に応じなかったから」なんていう本音なんか出さずに、じわじわと不利益な扱いをすることは、厚労官僚にとっては簡単なことでしょう。
加えて、先に述べたとおり、おそらく看護関係者の中には進んで応じる人もいるでしょう。
繰り返しますが、今回は戦争ではなく、かつ、実際に看護師が足らないという事情もあります。お仕事や学業に余裕があるのであれば、今回の「要請」に協力すること自体には問題はないとも言えるでしょう。私が新コロにかかって入院したときに手厚い看護が受けられれば、感謝すると思います。
しかしながら、法学研究者としては、目の前のことを考えるだけではなく、その背景にある構造やそれを取り巻く人々のメンタリティまで含めて検討し、かつ、目の前で起こっている事柄が今後どのように展開する可能性があるのかというところまで考えておく必要があるように思われます。
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という話をしていると、以前、某学会学術総会全体シンポジウムで「大学の軍事化」の問題が取り上げられたとき、「研究の軍事化」のお話ばかりで「大学教育の軍事化」のお話がさっぱり壇上からは出ないので、質疑の際にこのことを質問して壇上の8人全員をとまどわせるということをやらかしたことが思い出されます。
でも、まずいと思うんですよね。
研究の軍事化だけでなく、大学教育・高等教育の軍事化にもちゃんとカウンターを打ち出しておかないと。
以上
Facebookからの転載をご快諾頂いた方に、心より厚く感謝申し上げます。とともに、すべての表記を実名で大丈夫と言われたにも関わらず、私の判断で伏字に致しましたことをお詫び申し上げます。
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大学と各種の専門学校で、法律学、哲学、社会学、家族社会学、家族福祉論、初等社会、公民授業研究、論理的思考などの科目を担当しています。
KJ法、マインド・マップ、ロールプレイングなどの技法を取り入れ、映画なども教材として活用しながら、学生と教員が相互に学び合うという参画型の授業を実践しています。現在の研究テーマの中心は、法教育です。
私は命ある限り、人間を不幸にする悪と闘い抜く覚悟です。111歳までは、仕事をしようと決意しています。