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「永遠の命と思って夢を持ち、今日限りの命と思って生きるんだ。」

 杜下弘記裁判官に対する国家賠償請求訴訟の準備書面の続きをご紹介させて頂きます。

 

 

第4、訴訟能力の有無の証明方法

 1、意思無能力の証明

   それでは、訴訟能力がないことをどのように証明すべきでしょうか。

   池田に行為能力が無い場合は、裁判所が職権によって調査すればよいことであるので、ここでは論じない。

   では、池田に意思能力がないことは、どのように証明すべきであるか。先に述べたように、民法学説上言われているところとは異なり、ここでは意思無能力の証明は無能力者側からのみなしうるとの見解はあたらない。

   前述の通り、裁判所の職権による調査が求められるので、第一義的には裁判所の調査を求める。多数の学説によれば、裁判所は「いつでも」調査「しなければならない」とされている。

   しかし、訴訟能力について疑義を生じた理由が、たとえば当事者(本件では池田)提出にかかる書面の真正などについてであった場合には、その書面の成立の経緯も重要な証拠ないしは事実になりえるのである。

 

 2、意思能力の調査

 (1)裁判所の職権による意思能力の調査は、たとえば裁判所による本人の面接等によって実現することもできる。この方法によれば、当事者能力の有無についても疑義を生じることは無く、根本的な調査による(この点について、必ずしも明確に主張されているわけではないが、新井・西山編『成年後見と意思能力―法学と医学のインターフェース』(日本評論社・2002年)を参照)。

    しかし、裁判所による面接が難しい場合もあり得る。例えば、当事者が重篤な病にある時や、伝染病に罹患している場合には、医療的な安全の面からも不可能であると言えない訳ではない。

 

 (2)意思能力は、心理学的ないし脳科学的知見から計測される能力に近似するとは言えるが、その計測そのものではないとされている(大塚明「訴訟能力・弁論能力と意思能力―基礎的再検討のための覚書」神戸学院法学40巻3=4号125頁以下、特に145~146頁)。

    しかし、例えば裁判所が任命した、第3者的な地位にある医師等がなした意思能力の調査は、裁判所による面接と同様に信用性のある調査となる。その場合、医師による面接の録取などによって裁判所が判断することとなるのである。

 

 (3)書面による証明は、例えば、医師の診断書等によることもできる。但し、この場合、医師への尋問等によって証拠力を補う必要がある場合がありうる(なお、実際の鑑定については、前田泰『民事精神鑑定と成年後見法―行為能力・意思能力・責任能力の法的判定基準』(日本評論社・2000年)115頁以下参照)。

 

 (4)池田の訴訟能力については、池田の代理人が委任状を作成するにあたって委任状に署名を得たことを、相手方から訴訟能力があることの証明として提出された。

    委任状の記述次第によっては、訴訟能力を証明する証拠力に欠けることに可能性はないとは言えない。

    委任状に限らず、書証一般の証拠は、文書の記載内容が要証事実の証明にどれほど役立つかの度合いである「実質的証拠」と、文書が真正に成立したものであるかの「形式的証拠力」に分けて論じられる。文書の真正は、証拠の信用性にかかわる事実であるから、要証事実そのものではなく補助事実にすぎないが(岡・前掲320頁)、当事者能力や訴訟能力の関する場合、その証拠力は非常に高まるのである。

    文書の真正に関しては、民事訴訟法228条及び229条がこれを定めている。

    委任状は、代理人と本人の間で交わされる私文書であるから、228条4項によって、本人の署名または押印がある時には、真正に成立したと推測される。最高裁判所昭和39年5月12日判決民集18巻4号597頁は、文書中の印影が本人の印象によってなされたものである時には、反証にない限り、その印影は本人の意思に基づくものとされ、その結果228条4項の推定によって私文書の成立の推定を受けるとされている(二段の推定)。

    しかし、創価学会の代表者会長池田の印は、池田以外でも容易に使用し得る状況にあったような場合には、第三者による盗用等の可能性をぬぐいきれない。盗用とまでは言えないとしても、例えば、印影だけであれば本人に借りて押印することもできるのである。

    押印は、それ自体は当事者の存在を証明する方法そのものではない。わが国の伝統や慣習に鑑みて、実印に代表されるような、重要な意味がある印鑑を押したということは、真摯な意思をもって文書を作成したのだ、と推定する要件、簡単に言えば意思の要件である。

 

    例えば、自筆証書遺言の作成にあたって必要とされる押印は、押印であればよいのであって、本人によってなされたものであることを要しないとされている(大審院昭和6年7月10日判決大審院民事判例集10巻736頁。なお、最高裁判所平成元年2月16日判決最高裁判所民事判例集43巻2号45頁も、いわゆる拇印による遺言を認める際に「印章による押印であっても、印影の対照のみによっては遺言者本人の押印であることを確認しえない場合がある」ことを認めている)。

    それに対して、本人の署名は、直接的に本人の存在を証明する。本人が自署したということは、本人がある一時点においてその文書の前に存在し、最低限の身体的能力を持っており、ある程度の意思と判断力を有していたことの証明になる(だからこそ民法第968条は、遺言者自身の自署を要求し、遺言者自身の押印は要求していないと言える)。民事訴訟法第229条が、書面について筆跡対照等の方法による証明を認めているのは、まさに訴訟当事者の人定情報や、文書の真正な成立について疑義が生じた場合に、本人が作成したものかどうかを確かめるためである。この意味では、署名は当事者その他の人の存在及び意思を証明するものと言える。

    ところが、平成23年9月26日付の池田大作の訴訟委任状は、パソコン打ちの池田大作の自署では無い委任状である。押印もいわゆる百均の三文印で、どこでも手に入るものである。

    従って、委任状の署名・押印が特段池田の訴訟能力の証明にはならない。

    なお、法改定により電子署名の方式が承認されるようになっておりますので、電子署名の方式を踏んだものは、除くものとする。

 

 3、訴訟能力の欠缺を看過してなされた判決の効力

   なお、前訴において、従来の創価学会や池田に対する損害賠償請求訴訟(以下「第1訴訟」という)の訴訟行為が遂行されたことを理由に前訴が何らかの問題を含むのではないか、との点について、学説の通説となっている考え方は、訴訟能力の欠缺を看過して終局判決がなされた場合、既になされた判決は当然には無効にならないとしている。但し、判決確定前に訴訟能力の欠缺が明らかになった場合は上訴、確定後であれば再審によって取消を求めうる、とされている(岡・前掲74頁)。

   本件の場合、第1訴訟の時点で訴訟能力が欠けていたとしても、現実に第1訴訟の判決は下され、判決効を生じている以上は、法的安定性を確保すべきである。そこで、当然には無効とはならない。この点で、前訴での依頼者高倉の訴訟行為は第1訴訟の行為と矛盾することになる。そこで、通説は、判決を当然には無効とせず、上訴(民事訴訟法第312条2項4号)または再審によって争って、初めて効力を失うと考えている。

   今回は、338条1項3号によって再審事由になるものと考えられる。

   これに対して、いわゆる無効説からの有力な反論もあるが、結論的には再審事由となることでかわりないと思われる。無効説は、判決を当然に無効とするのではなく、上訴または再審によって無効とする考え方であるので、結論は同じになるのである。

 

          つづく



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