今回は、「論理的思考力養成講座シリーズ その2」でご紹介した2008年6月10日にX歯科技術専門学校で開催された座談会の記事のつづきを掲載致します。
以下、この座談会の中から、私の発言のみを抜粋してご紹介させて頂きます。私の発言の根底にある問題意識は、いかにして賢明な人間を育てるかです。
なお、黒太の見出しは、雑誌の編集者が付けたものです。
記
先生がおっしゃる通り、日本の文部科学省は国民に考えさせようなんて全く思っていない。考えるのは、自分たちだけでいいと。
私の同業で熊本大学のある人が言ったのは、地方の国立大学の目的は何かと言うと、東大出の官僚たちをあごで使うような人材を育てることだというのです。
福岡県の農協中央会が運営していた農業大学校で半年間教えたことがありましたが、彼らは、農協に採用された人間を一年間そこで研修させるのです。そうして農協の人たちが集まって何を話しているかというと、トヨタの人材研修の内容、他の企業の研修の内容、そんな話ばっかりしている。農協中央会は、それだけ人材育成をやっているのです。本当に考える人間を育成するということで、すごいと感じました。
ところで、大学の場合は図体が大きいですから、逆に言うと専門学校で小回りがきいて、しかも一定の技術が身につけられるわけですから、それは強いと思いますね。
(中略)
本物に触れる
私は、今年の2月と3月に、Z医療カレッジで入校前セミナーを担当致しましたが、その目的は、経営サイドとしては、合格後に他のところに行かないで、ここに来るようにする目的や、入学してからも人間関係がうまく行くようにという目的があります。
入学前の時点でのセミナーで、グループ作りのために、自己紹介ではなくて、他己紹介をすることで最低一人は友だちになるのです。このように入学前の段階から意図的に、仲間作りが出来るようなことをやっていくことです。
それから、このセミナーでやってみたら良い具体的なこととしては、例えば「歯科医院の理想的なデザインを考えさせる」というようなことはどうでしょう。それをやるからには、ある程度のデザインとかそういうものを教える人を見つけてきます。そうすると、病院に行ったときの見方が違うでしょう。
アメリカの医学部、例えば、コロンビア大学の医学部とかでは、いわゆる物語医学という、患者が語る物語というのを聞いて、傾聴して、その中から、共に考えるという、そんな研修プログラムを作り始めています。UCLAの医学部では一泊入院体験プログラムを行っています。
このプログラムでは、学生が何かの病気だということにして、一泊入院させる。そのときはじめて患者さんの体験を聞く、あるいは家族でも分からない患者同士でしか悩みは共有できないということを学んでくる。そういうふうな形で、自分で考えるためには、教えることがたくさんあります。
それから、教える場合は、相手が学びたいという気持ちをどうやって引き出すかです。
さらに非常に難しいのは、こちらはちゃんと語っているのに、自分に都合のいいことしか相手には残らないのです。
だから学びたいというような意欲というのは、自分の方がこれを学ぶと楽しいということを実感を込めて語ることや、本物に触れることです。
こういう意味合いから、演劇でもそうだし、美術でもそうだし、舞台にしても大切です。テレビで見るのと映画館で見るのと、それらの会場に行くのは違うでしょう。絵画にしたってそうです。本物の迫力とレプリカは違うわけです。
だからそういうふうなものも、カリキュラムの中に織り込むわけです。そうやって本物に触れることを意図的にいれることです。3年制に向けてのカリキュラムが決まってなければ、ある意味でこっちのものです。自分で作れるのだから。
最近、NHK で「一期一会」という良い番組をやっているので、この番組に出てきた人たちを連れてきて、語ってもらう。いろんな職業の人たちを呼んで、その中から現場、本物に触れると、やはり違うと思います。そうすることで、自分の仕事で楽しいこと、辛いことを知ることが出来れば非常にいい体験になるのではないかなと思います。
日本国内はもちろん、在学中に一度は海外に行って医療現場を見学したり、美術館や史跡を巡るという研修を組み込み、そんな取り組みをしていることを高校の先生や父兄にもアピールしていくわけです。本物に触れたら、違うのではないでしょうか。
(中略)
あらかじめ、早めに核になるような人を、2月か3月に、それこそ五色台のあのあたりで、一泊研修でもすればいいのです。そういうところで、仲間作りからするようなことをやって、なおかつ勉強の方もやって、かつ先生は、自分の分野のところ、これからやるところを概要書とか作って示していく、というようなことをするのです。そうすると、ああこれからこんなことをするのだなと思う。
このような機会を通しながら、教務の先生方は、継続的に研修する。今考えているのは、教育に関する映画があるので、それを見ながら、一体全体教育に携わるってどういうことなのかということを、みんなで気軽にディスカッションするところから始めていく。それを蓄積していくと、だんだん違ってくるのではないかなと思いますね。学生に対する接し方も、楽しみながらという風に
(中略)
「学ぶ」ことは楽しいこと
鷲田清一という大阪大学の総長が書いた『待つということ』という本があります。この本でも語られていますが、相手の成長を待つということも大事ですね。
それと、もう一つはここの教務の先生方が、この学校に勤めることが、ものすごく楽しいと思って、ワクワクしながら登校されるようになると、学校は確実に変わります。
「学ぶ」ということは、小さいうちは分からないから強制しないとダメですね。だけどある程度大人になってからは、本来的には「学ぶ」ということは楽しいはずなのです。新しい世界に触れて、新しく自分が変わるのだから。それが楽しいということは必ず、熱伝導ではないけれど、ちゃんと伝わっていく。
ここで学生に教えるのは何なんだ、何で私はここにいるのかというところからお互いにディスカッションして、積み上げていくと、学生に対する取り組みの姿勢も変わるだろうと思います。
そして、担任の先生たちには、自分たちがそういう研究を続けているということを、学生に対して1分間スピーチ、45秒スピーチなりという形でスピーチして頂ければいいのです。そうなれば、学生の方も、先生がそれだけ頑張っているなら自分たちもって、そう思いますよね。
(中略)
技工士・衛生士をもっとPRする
歯科医師と、歯科衛生士と、技工士が登場するような映画を撮ったらいいのではないでしょうか。しかも香川は、今映画の制作地として売り出していますから。そうすると世の中は意外と単純なものです。「海猿」だったと思いますが、あの映画を見て、海上保安官になりたいと思う方が出てくるわけです。そこで、歯科の物語を作るのも一つ。
それからNHKの番組の「一期一会」とかにも歯科衛生士や技工士を取り上げてもらうように交渉する。さらに学生にとって、そういう魅力を語るような、テレビ番組で取り上げてもらえるようなイベントを、意図的にやる。こんな企画でやってみたら、それだけでも何とかできるはずです。
(中略)
昨日、教頭のB先生と話していたら、コンビニよりも歯科医院の方が多いという話を伺ってびっくりしました。
でも、それだけ歯科医院が多いのだったら、そこを出合いの広場にすればいいのですよ。
厚生労働省が、病院が老人のたまり場になると批判していますね。歯科医院には子供もたくさん来るわけですから。あそこの歯科医院に行ったら、何か学ぶことがある。単に歯を治すだけではない、もちろん技能がきちんとしていないと困りますけれど、そこを交流の場にするというような、ちょっと視点を変えるだけで違ってくるのではないかなあと思うのです。
患者さんへのたった一言の声かけでも、それだけで違うのではないかと思います。そういうような役割も担っていらっしゃるのだと、歯科医の先生方も歯科衛生士や技工士の方々も思ったら、コンビニよりたくさんあるということは、逆に非常に有利な部分に繋がります。
(中略)
いやいや、だからこそ、工夫することです。しかも、歯はみんな絶対悪くなるのだから。そうなれば、患者さんをうまく分配ができるような形になって、共存共栄になってくるし、もちろん悪いところがあったら淘汰される。いくら話し方がうまくても、技能が下手だったら行かないわけですよ。それは、患者さんの立場にならないと分からない。
ある程度自然淘汰されるのは仕方がないけれども、逆にそれだけ多くの歯科医院があったら、出合いの広場みたいな形でやっていったら、違うのではないですか。
私の体験から述べると、私は大学の教員になろうなんて全然思わなかった。私は中学の3年の時に腎臓炎になりまして、20歳まで生きることが出来たらどれほど楽しいか、素晴らしいかと思っていましたが、その時に、かかっていたお医者さんが、患者である子供を、いろいろ伸ばそうとするわけです。
その先生のところに我々が行った時に、百科事典があるかという話になり、それで百科事典を買いました。そしたら弟なんかずっとそれを読んでいるわけです。
そういうふうに、開業医であったけれども、子どもたちを啓発し教育されたのです。ほんのちょっとの関わりですが、その先生との出合いがなかったら、今の私はなかったと思います。病院が出会いの場になれば、豊かな生き方につながってくるのではないかなと思います。
以上
大学と各種の専門学校で、法律学、哲学、社会学、家族社会学、家族福祉論、初等社会、公民授業研究、論理的思考などの科目を担当しています。
KJ法、マインド・マップ、ロールプレイングなどの技法を取り入れ、映画なども教材として活用しながら、学生と教員が相互に学び合うという参画型の授業を実践しています。現在の研究テーマの中心は、法教育です。
私は命ある限り、人間を不幸にする悪と闘い抜く覚悟です。111歳までは、仕事をしようと決意しています。