「法と教育学会」が発行している機関誌に掲載されなかった原稿を、以下、ご紹介します。
記
『和歌山カレー事件「再審申立書」概説』
弁護士 生田暉雄著
(万代宝書房,83頁,1,100円[税込み])
書評は本来,1冊の書籍の内容を紹介し,論評を加えるものであろう。しかしながら,本稿では表題の本を紹介するとともに,「和歌山カレー事件」に関する著者の一連の書籍も紹介する。このような記述をすることによって,著者の問題提起が,法教育の分野はもちろん,日本の司法制度に大変革をもたらす画期的な主張であることが認識されると思われるからである。
本書は「和歌山カレー事件」の再審請求申立書の概要を記したものである。まず,著者のプロフィールを述べ,つぎに「和歌山カレー事件」の概要を記した後,本書の内容を紹介する。それから,「和歌山カレー事件」に関する著者の一連の著作を紹介する。最後に,これらの書籍が有する革命的な意義に言及する。
著者の生田暉雄弁護士は,「和歌山カレー事件」の再審申立代理人である。著者は,元大阪高等裁判所の裁判官で,裁判所を退職後は,香川県で弁護士となった方である。香川県弁護士会から9回もの懲戒処分を受けた弁護士でもある。この懲戒処分の数は,2022年11月末現在の時点で,日本の弁護士としては最高の数である。著者はこれまで,最高裁判所が裁判官の報酬を操作し裏金を作っていると主張し,愛媛教科書裁判訴訟,高知白バイ事件の再審請求訴訟,創価学会を相手にした損害賠償請求事件の訴訟代理人を担当した人物である。
「和歌山カレー事件」は,法と教育学会に入会している方々は良くご存知のことであろう。しかしながら,1000頁に及ぶ第一審の判決書をご覧になり,判決の中に被害者4人の死因の立証がないことをご存知の方はほとんどおられないであろう。本書を読まれるならば文字通り驚天動地されるに違いない。
著者は,「和歌山カレー事件」を,本書の10頁で「1988年(平成10年)7月25日,和歌山県和歌山市園部地区で行われた夏祭り会場において提供されたカレーを食べた67人が,腹痛や吐き気などを訴えて病院へ搬送され,このうち自治会長及び同副会長,小4男児,高1女子生徒の4人が死亡した」事件であると説明している。そして,同書では,1998年10月4日,知人男性に対する殺人未遂及び保険金詐欺の容疑で,元保険外交員の主婦林眞須美氏(当時37歳)が,別途詐欺等容疑の夫とともに逮捕され,さらに林眞須美氏は12月9日,カレーへの亜ヒ酸混入による殺人及び殺人未遂の容疑者として再逮捕され,同年9月29日に起訴された。林眞須美容疑者は容疑を全面否認し完全黙秘をしたが,2002年12月11日の第一審判決では求刑通り死刑を言い渡された。その後,2005年6月28日の控訴審判決では死刑が維持され,2009年4月21日に,最高裁判所は上告を棄却し死刑が確定した。
本書の構成は以下の通りである。
はじめに
序章
第一 計画的な冤罪
第二 各部署の不当,違法性
第三 弁護の不当,違法性
第四 裁判の不当,違法性
第五 再審支援の新手段の創造の必要性
第六 Q&A
参考資料(チャート分かる本再審申立)
参考資料(被害者鑑定資料結果)
筆者が,この本を読んで驚いたことは数多くあるが,3つに絞って述べる。
まず,本書の26頁に「一番驚いたことは,死刑判決にもかかわらず,死亡した4人の直接の死因の証拠として,死亡即日及び翌日に解剖されたことが存在しているはずの解剖結果,死亡診断書,死体検案書が裁判に,死亡した4人の死因を立証する証拠として全く提出されていない」と記されていることだ。さらに,27頁には,「検察官の冒頭陳述,論告,弁護人の最終弁論は元より,判決においてさえも,死亡した4人の死因の直接証拠(解剖結果,死亡診断書,死体検案書)には,いずれも全く触れていない」と書かれていることだ。
つぎに,著者が再審請求申立書を裁判所に提出するとともに,その内容を出版されたことである。再審請求が認められた後に,裁判の経過等が出版されたことは,これまでにもあったと思われる。しかし,裁判所に再審請求を申立てるのとほぼ同時に,その内容が出版されたことはないのではないだろうか。この手法は,日本の再審請求訴訟史上,前代未聞ではないだろうか。
それから,本書の42頁以下で「原判決は,被告人林を死刑としながら,その理由中の証拠の標目のそれも3箇所に,第三者が犯人であるとする証拠を判示するという全く矛盾極まりない判決を宣告した」と述べ,「三人の裁判官の誰一人として,証拠を見ずに,読まずに判決をしている」と喝破している点には驚愕した。
さて,本書に関連した書籍として,著者が出版された著作は以下の通りである。
1生田暉雄(再審申立代理人)著『和歌山カレー事件「再審申立書」ー冤罪の大カラクリを根底から暴露』万代宝書房,2021年6月
2生田暉雄(再審申立代理人)著『和歌山カレー事件 パートⅡ「再審申立書(保険金詐欺関係)」ー冤罪の卑劣なカラクリを根底から暴露』万代宝書房,2021年11月
3生田暉雄(再審申立代理人)著『和歌山カレー事件 パートⅢ「再審申立書(ヤケド保険金詐欺関係)」ー冤罪の秘匿・怠慢の捜査・裁判を根底から暴露』万代宝書房,2022年1月
4弁護士生田暉雄(再審申立代理人)著『冤罪・死刑を弄ぶ国家ー死因の証拠がない死刑判決「和歌山カレー事件」』万代宝書房,2022年10月
1では,第2章で,事件発生当時の新聞や雑誌の記事が列挙され,毒物に関する報道が青酸カリからヒ素に変わる過程を明らかにしている。第4章で,日本の捜査制度の根本的な欠陥を指摘し,民主主義社会に必要不可欠な犯罪捜査規範の法制化を具体的に提案している。
2では,保険金詐欺に関して,林眞須美氏が無罪であることを論証している。この書の8頁では「ここまで堕落した判決は,一朝一夕に出来るものではありません。日本社会の構造的腐敗が言われて久しくなっていますが,日本社会の構造的腐敗は裁判から端を発していることを如実に示すのが『和歌山カレー事件』の判決なのです。」と記されている。
3では,原審が,林眞須美氏が成立を争わない保険金詐欺事案と認定する事案に関して,無罪であると主張する再審申立の内容が記されている。
4では,林眞須美氏の拘留取消請求申立書が紹介されている。この書の第2章解説では,和歌山県警へ事件発生前に重大事件が起きる通報が寄せられていた可能性があり,この事件の真犯人に言及している。さらに,令和4年6月1日付けで,林眞須美氏が日本弁護士連合会に対して,一審,二審,上告審の三人の弁護人から多額の金銭を詐欺,横領されたとして人権救済の申立書を提出したと記されている。
「和歌山カレー事件」に関する一連の書籍は,事実認定の誤謬を指摘するだけではなく,日本の刑事司法に内在する根源的な問題点を指摘し,抜本的な改革を提案するものである。再審請求申立が認められ,林眞須美氏の無罪が証明されるならば,生田暉雄弁護士は,ノーベル平和賞を受賞されるのではないだろうか。
国立大学法人香川大学名誉教授
髙倉良一
以上
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